腸内細菌とは??
腸内細菌とは、口から入ってきた食べ物を餌にして腸にすみついている最近のことです。
人の腸には約1000種類、100兆個もの腸内細菌が生息しているとされ、外部からのウイルス・細菌の侵入や増殖を防いだり、腸の運動を助けることによっておなかの調子を整えたりしています。
また、腸には免疫細胞の7割が集中しており、腸内細菌がその働きを助け、活性化させることで体を守る働きもしています。
さらに、食べたものからさまざまな物質を作りだすことによって、おなかに限らず全身に影響していることがわかってきました。
バランスが崩れると便秘や下痢の原因に!?
おなかのトラブルで多い便秘や下痢には腸内細菌が関係しています。
腸内細菌は、食べ物の消化や吸収、便をつくる手助けをする働きをしています。
そのため、ストレスなどによって腸内細菌のバランスが崩れたり、うまく働かなくなると、便秘や下痢などが起こりやすくなります。
現在の研究などで、腸内細菌の影響が考えられるものが、長寿、お通じ、大腸癌予防、認知症、肥満改善・糖尿病予防
健康長寿の人には酪酸産生菌が多い
100歳以上の人の割合が全国平均の3倍以上という、長寿の地域として知られる京都府京丹後市の高齢者を対象に、2017年から行われているさまざまな調査で、腸内細菌にある特徴が見いだされました。それは、酪酸産生菌が多いことです。
酪酸産生菌とは、ビフィズス菌や乳酸菌と並ぶ有用菌の一つで、その名の通り酪酸(短鎖脂肪酸の一種)をつくる細菌のことをいいます。
酪酸は、大腸の粘膜の上皮細胞のエネルギー源で、大腸の健康のカギになるものです。
そのため、健康長寿の要因の一つになっていると考えられています。
京丹後市の高齢者を対象に栄養調査をしたところ、酪酸産生菌が多いのには、食生活が影響しているのではないかということがわかってきました。
高齢者の皆さんは、豆類や野菜、魚介類中心の食生活で、なかでも食物繊維を含む根菜類や芋類、海藻類、全粒穀物などをたくさん食べられています。
酪酸産生菌は食物繊維を餌にして酪酸をつくっています。そのため、毎日の食事で食物繊維を多くとることは、腸を元気にする酪酸を増やすことにつながると考えられます。
また、京丹後市の高齢者については、食生活だけではなく、毎日体を動かしていることも、腸内細菌によい影響を与えていると考えられます。
酪酸産生菌と大腸の関係
食物繊維と酪酸産生菌によって酪酸が作られる→酪酸が大腸の上皮細胞のエネルギー源になる→大腸上皮細胞が大腸内の酸素を消費→酪酸産生菌などの有用な最近がすみやすくなる→腸内環境が良好に
大腸癌に関係する腸内細菌
腸内細菌には、体によい働きをするものだけではなく、悪さをするものもいます。その中でも、大腸癌との関係性が注目されているのが、フソバクてリウムという細菌です。
フソバクてリウムは、大腸癌のリスクを高める硫化水素を作ります。
また、大腸癌には食事の影響が大きいとされていますが、そこには、フソバクテリウムが関係しているのではないかと、考えられています。
フソバクテリウムは口から大腸に入ってきた口腔内細菌であることもわかっていますが、今後の研究で、大腸癌と腸内細菌の関係が明らかになることが期待されます。
肥満改善・糖尿病予防と腸内細菌
肥満や糖尿病に直接関係している腸内細菌は、まだ発見はされていません。
しかし、肥満の指標であるBMI(体格指数)の数値と、日本人の多くが持っている腸内細菌であるブラウティア菌が相互に関係していることがわかってきています。
ブラウティア菌の一種が、脂肪の蓄積を抑える物質をつくるといわれており、肥満予防に役立つのではないかと考えられています。まだ研究段階のようですが、注目されている細菌です。
認知症と腸内細菌の関係
現在、腸内細菌が脳の疾患と関係しているかもしれないと、さまざまな研究が行われています。
国立長寿医療研究センターの研究では、日本人の腸内に多いバクテロイデスという腸内細菌や、腸内細菌がつくる乳酸が少ないほど、認知機能が低下している傾向にあるという結果が出ています。
乳酸をつくる乳酸菌の代表であるビフィズス菌を積極的にとり、腸内環境を整えることは大事だと考えられます。まだ研究段階ですが、将来的に腸内細菌が認知症予防に役立つようになることが期待されます。
重要なのは”多様性”
腸内細菌の働きは複雑で『この細菌がいればこの病気が防げる』というような単純なものではありませんが、よい腸内環境をと保つことは全身の健康に繋がります。
そこで重要なのが多様性です。いろいろな腸内細菌がいないと、バランスが崩れて体によくない働きをする細菌が多くなってしまいます。
現代の人は、腸内細菌の多様性がどんどん低くなる傾向にあります。腸内細菌のバランスや多様性を保つために、まずは食生活を見直してみましょう。
腸内細菌を整える食材
腸内細菌を整えるカギは食事です。食事を工夫すれば、2週間程度で腸内細菌は改善されますが、逆に悪くなるのはあっという間です。よい腸内環境を維持するには、持続的に食事をコントロールしていくことが重要です。
食事のポイントは、腸内環境をよくするための食べ物を上手に取り入れながら、腸内環境を整えましょう。
豆、大豆、豆腐、納豆など
大豆や大豆製品には、良質なタンパク質のほかに食物繊維が豊富に含まれています。
食物繊維は、腸内細菌の餌になり、腸内細菌を増やす働きがあります。
便のかさを増やして排便を促す働きや、腸内の余分な糖や脂肪などを吸着して便として体外に排出させる働きもあります。
納豆や味噌などの大豆の発酵食品は、よい働きをする腸内細菌の餌になるだけではなく、悪い働きをする菌の増殖を抑える作用もあります。
また、大豆に含まれるイソフラボンという成分は、腸内細菌によって女性ホルモンのような働きをする物質に変わることがわかっています。
ごま、すりごま
ごまには、オレイン酸やリノール酸が多く含まれています。
オレイン酸やリノール酸は、血液中のLDL(悪玉)コレステロールを減少させる作用があり、動脈硬化の予防効果が期待できます。
また、腸内細菌がオレイン酸とリノール酸を使って体によい働きをしているという研究もあります。
なお、ごまの皮はほとんど消化されないので、すりごまにして食べることが大切です。ごまあえなどにして食べましょう。
わかめ、のり、ひじき、もずくなど
食物繊維には、水に溶けやすい水溶性食物繊維と、水に溶けにくい不溶性食物繊維があります。
わかめなどの海藻類に多く含まれているのは、水溶性食物繊維です。水溶性食物繊維は、腸内細菌の餌となり、腸内細菌を育て、活性化させる働きがあるので、積極的に海藻類をとるようにしましょう。
野菜
野菜には食物繊維が豊富に含まれています。お勧めは、キャベツやレタスなどの葉物野菜よりも、にんじん、ごぼう、レンコンなどの根菜類ですが、大切なのはいろいろな種類の野菜をとることです。
さまざまな野菜をとると、腸内細菌の種類が豊富になるという研究報告もあります。
腸内には約1000種類もの腸内細菌が生息していて、それぞれ餌にする食物繊維の種類も違います。そのため、摂取する食物繊維の種類が多いと、より多くの食物細菌を活性化することに繋がると考えられています。
魚
魚には、良質なタンパク質が豊富です。また、さんま、いわし、さばなどの青魚には、良質な油であるDHA(ドコサヘキサエン酸)やEPA(エイコサペンタエン酸)が多く含まれています。
これらは腸内細菌の多様性を高めるという報告があります。
タンパク源として肉の摂取も必要ですが、動物性脂肪の摂りすぎは腸内環境に悪影響を及ぼすので、食べ過ぎには注意しましょう。
きのこ
しいたけ、えのき、舞茸、しめじなどきのこ類は、食物繊維が豊富です。
きのこ類の食物繊維は免疫細胞にも作用するといわれています。
いも
サツマイモ、ジャガイモ、里芋など芋類にも、食物繊維が多く含まれています。
長寿者が多い地域である京都府京丹後市の高齢者を対象に栄養調査をしたところ、毎日芋類を食べる高齢者は5%、週5〜6日食べる人も33%いることがわかっています。
保存がきく食材なので、常備しておくとよいと思います。
ヨーグルト
ヨーグルトに含まれる乳酸菌は、よい働きをする腸内細菌を増やす手伝いをして、腸内細菌を整えます。
1日1カップ(200gほど)を目安にとるようにしましょう。
ただし、ヨーグルトの種類は多くあり、自分に合わないものを食べると、下痢などが起こる場合もあります。いろいろ試して、自分のお腹と味覚に合ったヨーグルトを見つけましょう。
尚、日本人には乳製品に含まれる乳糖を分解できない人も多く、そのような場合は豆乳からつくられたヨーグルトがお勧めです。
全粒穀物を主食にする
玄米や雑穀などの全粒穀物も大切です。
主食の白米や白いパンを全粒穀物のものに替えるだけで、食物繊維を多くとれます。
例えば、パンを食べるなら全粒粉を使ったものにし、3食に1食は白米に玄米や雑穀を混ぜるだけでも、継続的に食物繊維をとることができます。
腸を元気にする4つの習慣
ストレスがかかったり生活習慣が乱れると、大腸の働きが悪くなって便秘が起こりやすくなります。また、体を動かさないでいると、大腸の働きは弱まっていきます。
腸の働きを、よくするためにも、次に4つの生活習慣を実践してみましょう。
①朝起きたらコップ一杯の水を飲む
朝起きたら、できるだけ早くコップ一杯の水を飲みましょう。お勧めは50度ぐらいの白湯です。電子レンジ90秒程を目安にしましょう。
水は胃を通過してすぐに大腸まで届きます。寝ている間に休んでいた腸が刺激されると、蠕動運動が促されて便通がよくなります。
また、就寝中に失われた体内の水分を補うには、目覚めにコーヒーやお茶ではなく、水またはスポーツドリンクを飲むことが大切です。コーヒーなどを飲む場合は、水を飲んでからにしましょう。
②朝食をきちんととる
朝食をとることで、体内時計をリセットし、腸の働きに深く関わる自律神経のバランスを整えることができます。
また、腸内細菌は、餌である食べ物が長時間入ってこないと、腸の粘膜を覆って腸管のバリア機能を果たしている『糖鎖』という物質を食べ始めてしまいます。
朝は、腸内細菌の餌になる食物繊維が含まれる食べ物をしっかりとりましょう。
特にバナナやシリアルは、時間がない朝でも手軽にとれるのでお勧めです。
③トイレに行って座る
食事を食べたあとに起こる大腸の蠕動運動は、朝に一番活発になるといわれています。
便秘で悩んでいる人は、朝には便意がなくても便座に座る習慣をつけ、直腸からでる信号脳が受け取れるように、数分間は座りましょう。
続けるうちに、徐々に便が出やすくなっていくでしょう。
④腸に刺激を与える運動を行う
運動と腸内環境の関係については研究が進められていますが、運動すると腸や腸内細菌が刺激されて活発になるといわれています。また、腸内フローラ(さまざまな腸内細菌の総体のことで、腸内細菌叢ともいう)は、運動すると多様性が高まり、そのことによって腸内環境が良くなるとも考えられています。
腸に刺激を与えるための手軽な運動としては、ウォーキングやジョギング、体操、ストレッチ、ヨガなどもちろんローリング療法がお勧めです。
また、買い物、階段の上り下りなど日常的な行動も腸内環境によい刺激になります。