中高年になると、目に関する不安を抱える人が多くなります。『見えにくくなった』といっても、その原因はさまざまです。それぞれの特徴を知りおかしいと思ったら、必要な治療のタイミングを見逃さないように、早く気づいて診断を受けることが大切です。
『見え方がおかしい』と感じていませんか??
- 目がかすむ
- 目の前にゴミのようなものがちらつく
- 視野の一部がよく見えない
- ものが歪んで見える
そんなときは、年のせいだろうと決めてかからず眼科の受診してみましょう
”見える”仕組み
見え方の異常と考えられる主な原因
⚫️目がかすむ、見えにくい
→白内障
→角膜・水晶体・硝子体・網膜の病気
→屈折異常、老眼
⚫️視野が欠ける、狭くなった
→緑内障
→網膜剥離
→網膜静脈閉塞症
⚫️突然、見えにくくなった
→網膜静脈閉塞症、糖尿病網膜症
→網膜剥離、硝子体出血
→視神経炎、脳の病気など
⚫️物が二重に見える(複視)
→白内障、乱視
→脳卒中、糖尿病による神経障害
⚫️まぶしく感じる
→白内障、角膜の濁り
⚫️視界にゴミのようなものがちらつく
→生理的飛蚊症
→網膜裂孔、網膜剥離
→硝子体出血
⚫️暗いところで閃光が見える(光視症)
→網膜裂孔、網膜剥離
⚫️物がゆがんで見える(変視症)
→網膜の黄斑部の病気(加齢黄斑変性、黄斑円孔、網膜前膜)
→網膜静脈閉塞症
⚫️中心部が暗く感じる・ぼやける(中心暗点)
→網膜の黄斑部の病気
→視神経炎
見えにくさを感じたら『眼科』へ
目に入ってきた光が眼底の網膜で像を結び、その情報が視神経により脳に伝えられることで、私たちは物を見ることができます(図を参照)。
見えにくい時には、この経路のどこかに問題が生じていると考えられます。
見え方が悪くなるという症状は、『視力低下』といいます。ちまたの中には、見え方が悪くなったことを『近視』、物がゆがんで見えることを『乱視』という人もいますが、この言葉は見え方の症状ではなく『屈折異常』の状態を表しています。
また、『老眼』は、目のピントを合わせている水晶体の弾力性が低下し、近くを見るときに必要な調節ができなくなったもので『調節異常』といいます。いずれも眼鏡で矯正すれば視力が出るのなら、病気として扱わないようです。
中高年になったら気をつけたい見え方の異常には上記の表のようなものがあります。
『見え方がおかしい』と感じたら、眼科へ行かれることをお勧めします。
白内障
【特徴】
白内障は、目の中のレンズの役割を果たしている『水晶体』という組織が濁って、見えにくくなる病気です。最大の原因は加齢変化で、ある程度の年齢になれば誰にでも起こります。
水晶体が濁り始めると目に入った光が散乱するため、『目がかすむ』『物が二重に見える』『まぶしく感じる』などの症状が現れます。進行すれば、『視力の低下』も起こります。ただし、症状の現れ方や進み方は、人によってさまざまです。
白内障は目の老化現象ともいえますが、症状で困るようになったら治療法があります。加齢による病気のなかでも、白内障は治療によって水晶体の濁りを解消することができ、いわば見え方の若返りが期待できます。
【治療】
白内障の治療としては、ごく初期に進行を遅らせる目的で『点眼薬』を用いることもありますが、主な治療法は『手術』です。
濁った水晶体を取り除いて、人工の眼内レンズに替えます。眼内レンズに見る距離に応じてピントを合わせるがないので、個々の生活に合わせた距離でピントが合うレンズを決め、必要に応じて眼鏡を使います。
多焦点の眼内レンズもあります。近年は、白内障の手術と、緑内障の手術や硝子体手術などを合わせて行う同時手術が増えています。
緑内障
【特徴】
『緑内障』とは、目に入ってきた光の情報を脳へ伝える『視神経』が障害されて、視野が欠けたり狭くなったりする病気です。
一度傷害された視神経は元に戻らず、進行すると失明することもあります。日本では、中途失明の原因の第一位です。
緑内障の主な原因は『加齢』『近視』『眼圧の上昇』と考えられています。加齢とともに視神経の細胞が減るのが最大の原因です。また、強い近視で眼球が前後に長かったり、眼圧が高くなったりすると、視神経が障害されやすくなります。
症状は、多くの場合、視野の鼻側から見えない部分が徐々に広がり、見える範囲が狭くなります。一般に進行はゆっくりで、視野の一部が欠けても、両目で見るともう一方の目が補うため、かなり進行するまでほとんど気付きません。
【治療】
眼圧を下げる薬で進行を抑えるのが基本となります。
眼圧とは、眼球内を循環する『房水』という液体の水圧を示す値で、房水が排出されにくくなると、眼圧が上がります。
どのような原因による緑内障でも、眼圧を下げることが視神経の障害を抑えることにつながります。
⚫️開放隅角緑内障・・・隅角が広いタイプで、日本人に多い眼圧が高くない緑内障は通常このタイプです。治療は、眼圧を下げる点眼薬による『薬物療法』が基本です。進行が十分に抑えられない場合は、『レーザー治療』や『手術』が行われます。近年は目への負担が軽い手術も増えてきています。
⚫️閉塞隅角緑内障・・・隅角が狭くなって房水の流出が妨げられ、眼圧が上がるタイプです。『白内障手術』で水晶体を取り除き、眼圧レンズに替えると、隅角が広がって房水の流れが良くなります。『レーザー治療』で虹彩に小さな孔を開け、房水の流出路をつくることもあります。
網膜裂孔・網膜剥離
【特徴】
眼球の内側を覆っている『網膜』は目に入ってきた光を感知する神経の膜で、この網膜が眼球の壁から剥がれるのが『網膜剥離』という病気です。50〜60歳代からの中高年に起こります。主な原因は、眼球内を満たしている『硝子体』の加齢変化です。
強度の近視があると、より若いうちから起こりやすくなります。
硝子体は透明なゼリー状の組織ですが、加齢とともに水分が分離して前方へ縮み、硝子体の後部が網膜から剥がれていきます。これが『後部硝子体剥離』です。縮んだ硝子体の影が網膜に映って『飛蚊症』を自覚することもありますが、後部硝子体剥離自体は誰にでも起こる加齢変化で、治療の対象にはなりません。
しかし、縮んだ硝子体と網膜との癒着が強いと、網膜が引っ張られて裂け、孔が開く『網膜裂孔』が起こることがあり、これは病気としての対応が必要になります。
網膜裂孔から網膜の下に水分が入り込んで起こるのが『裂孔原性網膜剥離』で、速やかな治療が必要です。
網膜には痛みを感じる神経がないので、網膜裂孔や網膜剥離が起こっても、痛みで気付くことはありません。
初期の症状としては、『目の前にゴミのようなものがつらつく(飛蚊症)』『暗いところで稲妻のような光(閃光)が見える(光視症)』などがあります。飛蚊症は後部硝子体剥離で起こり、光視症があれば網膜が引っ張られている段階と考えられますが、『急に大きな影が現れた、見えない部分ができた』という場合は、網膜剥離が起こったことが疑われます。
剥がれた網膜は光を感じなくなるため、その部分の視野が欠けます。剥離が網膜の中心部の黄斑に広がれば、視野のほとんどが欠け、そのままにしていると失明に至ります。特に中高年の網膜剥離は急速に進行するものが多いので、気になる症状があれば、速やかに眼科を受診してください。
【治療】
網膜裂孔だけなら、『レーザー治療』を行なって網膜剥離への進行を抑えます。網膜に開いた孔の周りをレーザーで焼き固める治療(光凝固)で、外来で点眼麻酔だけで行えます。
網膜剥離が起こったら、多くは手術が必要です。中高年の人では、主に『硝子体手術』が行われます。白目の部分に開けた孔から眼内に器具を挿入し、網膜を引っ張っている硝子体を切り離します。その後、光凝固を行ったうえで、特殊なガスやシリコンオイルを眼球内に注入し、その浮力を利用して剥がれた網膜を元の位置に押し付けます。
そのため、手術後一定の期間、うつ伏せの姿勢をとり続ける必要があります。また、シリコンオイルを入れた場合は、数ヶ月後に取り除く必要があります。
網膜が剥がれたまま時間がたつと、視細胞に酸素などが届かなくなるため、光を感じる機能を失ってしまいます。網膜剥離に早く気づいて治療を受けることが大切です。
網膜前膜
【特徴】
目の中で光を感じる『網膜』の中心部には『黄斑』があり、その表面に薄い膜ができる病気が『網膜前膜』です。『網膜上膜』『黄斑前膜』『黄斑上膜』と呼ばれることもあります。眼底写真では、網膜の表面にはセロハンのような半透明の膜が見られます。多くは、後部硝子体剥離が起こった際に、硝子体の一部が網膜上に膜上に残ったものが元になっています。
進行して膜が縮んでいくと、網膜が引っ張られてしわが生じ、見え方に異常が起こる原因になります。
網膜前膜には、ほかの目の病気が原因で起こるもの(続発性)もありますが、多くは加齢変化によって起こるもの(特発性)で、大半を60歳代以上の人が占めています。
網膜前膜が起こっても、早期には特に自覚症状がなく、人間ドックなどの限定検査で偶然見つかることも珍しくありません。進行すると『物がゆがんで見える』『左右の目で字の大きさが異なって見える』『視力低下』などの症状が現れます。ただ、片方の目だけの見え方の変化は、両目で見ていると気付かないこともあります。実際には、膜があっても治療の必要がないケースが多いのですが、年々変化するので経過観察が行われます。
網膜前膜があるだけで失明することはありませんが、見え方のバランスが悪くなると、細かい作業などに影響するようになります。ゆがんで見えるなどの自覚症状があれば、治療が検討されます。
【治療】
有効な薬物療法はありません。自覚症状が軽ければ『経過観察』になります。
『光干渉断層計』で網膜の状態を調べ、視力や見え方をチェックするのが基本です。
進行して自覚症状が強くなれば、『硝子体手術』が行われます。眼内に器具を挿入し、網膜の表面に張った膜を取り除きます。最近では、白内障手術と同時に行われることが多くなっています。
手術により自覚症状の改善が期待できますが、改善度はさまざまです。
症状が強くなければ手術を急ぐ必要はありません。ただし、あまり進行すると効果が限られます。
黄斑円孔
【特徴】
『黄斑円孔』は、網膜の中心部の『黄斑』に小さな孔が開いて、視力が低下する病気です。通常、片方の目に発症しますが、しばらくしてもう一方の目に起こる場合もあります。50歳以上の中高年に多く起こり、男性より、女性に多く見られます。
主な原因は加齢変化です。加齢に伴い硝子体の収縮により黄斑が引っ張られたり、網膜そのものの異常で孔が開くことがあります。そのほか、強度近視やケガなどが原因起こるものもあります。
主な症状は、『視野の中心部が見えない』『物がゆがんで見える』『視力が低下してくる』など黄斑の病気に共通する物です。ただし、症状が片方の目だけにある場合は気付かないこともあります。
【治療】
治療には、網膜の孔を塞ぐ『硝子体手術』が必要です。ほとんどは白内障手術が同時に行われます。黄斑円孔は失明する病気ではありませんが、放置すると孔が拡大して、視力が低下していきます。
両目に起これば、日常生活も不自由になります。そのため、一般に、黄斑円孔と診断されたら早めの手術が勧められています。時間がたつと手術をしても視力が回復しにくくなるので、治療のタイミングを逃さないようにしましょう。
黄斑円孔は『光干渉断層計』で検査を行えばすぐに診断ができ、治療で孔が閉じたかどうかも確認できます。
加齢黄斑変性
【治療】
『加齢黄斑変性』は、網膜の中心部の『黄斑』に加齢による障害が生じ、見ようとするところが見えにくくなる病気です。病変の起こり方によって『滲出型』『萎縮型』に大きく分けられます。日本では加齢黄斑変性の約9割が滲出型です。
⚫︎滲出型・・・網膜の下に異常な血管(新生血管)ができて、黄斑の浮腫(むくみ)や出血が起こります。進行が早く、すぐに治療が必要な可能性があります。
⚫︎萎縮型・・・物を見るために重要な黄斑の『視細胞』が徐々に死滅して、その部分が見えなくなります。滲出型比べ、ゆっくり進行していきます。
症状は、『物がゆがんで見える』『視野の中心部が見えにくい(暗い、ぼやける、色が不鮮明など)』
【治療】
滲出型の治療は、バイオ医薬品『抗VEGF』の眼球内への注射が中心になっています。この薬には、新生血管ができるものを抑えたり、退縮させたりする働きがあります。また、黄斑の浮腫が減って、見えにくい症状も軽減されます。ただし、治療をやめるとまた新生血管が生じてくるので、注射を繰り返す必要があります。
治療費が高額になるのが難点ですが、加齢黄斑変性に対しては、同等の有効性が確認されています。
そのほか新生血管のある場所に応じて、薬剤と弱いレーザーを利用した『光線力学的療法』や『レーザー治療』を行ったり、まれに大出血が起こった場合などに手術が行われることがあります。
萎縮型には、現在のところ治療法がありません。
加齢黄斑変性の予防に効果が確認された『サプリメント』や『禁煙』は、どちらのタイプにも勧められます。治療として使うサプリメントは、ルティンやビタミンC・Eなどが配合されたものです。
網膜静脈閉塞症
【特徴】
『網膜静脈閉塞症』は、網膜の静脈が詰まって血流が途絶え、網膜に出血や浮腫が起こる病気です。糖尿病性網膜症とともに『眼底出血』の代表的な原因となっています。
網膜静脈閉塞症は、枝分かれしながら広がっている網膜の静脈のどこが詰まったかにより次の2つに分けられます。
⚫︎網膜静脈分枝閉塞症・・・網膜の静脈の枝の部分で起こるもので、主に動脈との交差部で血管が詰まります。そこよりも抹消側の血管の血液が行き場を失い、出血や浮腫が起こります。
⚫︎網膜中心静脈閉塞症・・・網膜の静脈の根元が詰まるもので、眼底一面に出血や浮腫が広がり、急に視力が低下します。50歳以上の中高年位多い病気で
主な症状は、眼底出血の部位に一致した『視野の欠け』『変視症』『視力低下』などで、失明につながることもあります。
【治療】
黄斑の浮腫に対しては、眼球内や周囲への注射が主に行われます。網膜中心静脈閉塞症で『虚血』が強い場合は『レーザー治療』で新生血管のの予防にはかります。