現代人の肩こりには2つのメカニズム?!
現代人が、肩こりとなかなか縁が切れない理由は、大きく2つあります。
1つは、関節のなかでももっとも自由度の高い関節、肩関節の動きです。スポーツクライミングで壁でスイスイ登れるのも、スイマーが巧みなストロークで泳ぎ続けるのも、肩関節を自由に動かせるからです。そんな肩関節の多彩な動きの背景には、多くの筋肉が関わっています。
ですが、現代人は、肩関節を大きく動かす習慣がなく、肩関節を使わず、パソコン作業やスマホをするのが日常生活で大きな時間を使ってしまっています。
特に肩関節を内側に入れる動きが多くなっています。関節に隙間が狭くなります。
おかげで肩関節を支える数々の筋肉は活動の場を失い、硬くなったり、弱くなったりしています。それが第一の理由です。
もう一つは、肩関節と肩甲胸郭関節の関係です。
肩関節は肩甲上腕関節とも呼ばれます。上腕骨と肩甲骨の一部が繋がってできる関節で、腕を前後や横、回転させる動きを担当します。例えると、腕が動くための『メインの関節』です。
肩甲胸郭関節は、肩甲骨が肋骨の上を滑るように動く場所で、肩の動きをサポートしています。
これは実際の関節ではなく、肩甲骨がスムーズに動くための仕組みです。
巷でいう『肩甲骨はがし』はこの動きに対してのアプローチです。
両関節の関係は、肩を動かすとき、肩関節だけではなく、肩甲胸郭関節も動いています。例えば、腕を上げるときに肩甲骨が胸郭の上を滑って一緒に動くことで、腕が高く上がります。
肩関節が腕を動かし、肩甲胸郭関節がその動きをサポートする、という関係があります。
この両者の関係が現代人は問題を抱えています。
肩関節と肩甲骨には『肩甲上腕リズム』と呼ばれる運動パターンがあります。例えば、立った状態で『気をつけ』の姿勢から腕を上げる際に、腕だけが動けるのが30度前後までです。以降は肩関節と肩甲骨が2:1の割合で回転して腕を上げます。
デスクワークや車の運転やスマホ中毒になり、猫背姿勢が癖になると、肩甲骨が固まって動きが悪くなります。それは肩甲骨周辺の筋肉の負担が多くなり、呼吸にも影響します。肩甲骨が動かないと肩関節が余計に稼働する必要があり、腱板を傷めるきっかけになります。
その状態が周囲の筋肉の疲労につながり、慢性的な肩こりが生じる仕組みになります。
肩こりに関わる骨と関節の構造
ご自身の肩こりを知るには、肩の周りがどんな作りになっているか、知ることが大切です。
肩関節とは、肩甲骨の外側にある凹みに、上腕の骨(上腕骨)の丸みを帯びた先端がはまったものです。
肩甲骨は背中側にあり、逆三角形をした左右一対の平らな骨です。肩甲骨を体幹に繋ぎ留めるのは、鎖骨のみです。肩関節と同じように、多くの筋肉によって支えられています。
この他にも肩こりと関係しているのが背骨です。
背骨は、椎骨という円筒状の骨をブロックのように積み重ねたものです。一番上にあるのが7個の頚椎、次が12個の胸椎、その下にあるのが5個の腰椎です。このうち肩こりに関わりが深いのは、頚椎と胸椎です。
背骨は真横から見ると穏やかなS字カーブを描いています。頚椎は前側へカーブする前弯、胸椎は後ろ側へカーブする後弯をしています。このカーブが乱れると、周りの筋肉に負担がかかり肩こりにつながりやすいです。
胸椎は肋骨などと胸郭という鳥かごのような骨格を作ります。その可動性は元々低いですが、浅い呼吸や運動不足などで胸郭がガチガチに固まってしまうと、頚椎や肩甲骨の負担が増えて、肩こりの大きな原因となります。
ストレスや睡眠不足で交感神経が興奮すると肩こりに?!
肩こりは、筋肉以外の理由も考えらえます。もっとも多いのは、交感神経の緊張です。
交感神経は自律神経の中でカラダを活動的に整える働きがあります。
毎日のように多忙で、ストレスや睡眠不足を抱えると、交感神経が優位になりやすいです。交感神経は血管を縮めて血流を抑える働きがあり、それが肩こりの一因になってしまいます。
筋肉は、基本的に運動神経でコントロールされますが、筋肉内で長さを感知している筋紡錘には交感神経も連絡します。ですので交感神経の興奮は、筋肉の緊張を強めてしまいます。
交感神経の高ぶりを抑えるには、ストレスと睡眠不足の解消がもっとも重要です。
ストレスの緩和には、深い呼吸の腹式呼吸やリラクゼーションが有効です。
また、睡眠不足を抜け出すには、起きる時間を固定して眠りのリズムを定め、タイムマネジメントを徹底して眠る時間の確保が大切です。
肩こりには医学的に3つのジャンルがある?!
肩こりなんかほっとけば大丈夫と思うかもしれませんが、中には医療機関を受けるべき状態もあります。肩こりという状態は、医学的にグルーピングされています。その内訳は、本態性、心因性、症候性という3つの括り分類されます。
本態性はいわゆる一般的な肩こりです。心因性はストレスが原因となって生じるものです。症候せいは整形外科的、あるいは内科的に何かの原因があって肩こりの症状が見られるものです。
本態性は左右の方が同じように凝るのが特徴の一つです。それ以外の肩こりでは特定の部位に凝りや痛みが生じることが多く、後者の場合はとくに、ひとつひとつ考えられる原因を探っていく必要があります。
本態性肩こり
特に病気の背景がない、一般的な肩こりがこれにあたります。考えられる原因が、不良姿勢、長時間のデスクワーク、運動不足による筋力低下、過労、寒い環境、加齢、睡眠不足などです。
肩周辺の血流が滞り、発痛物質が蓄積して痛みが生じます。あるいは筋肉が過度のストレスを受けて興奮し、筋膜上の神経を介して交感神経が刺激され、さらなる緊張や凝りが生じると考えられています。
肩こりの症状が出やすい部位は、重い頭を支えたり肩関節や肩甲骨の運動関わる僧帽筋。リラックスした正しい姿勢をとる、マッサージなど施術を受ける、運動を取り入れる、といった対策によっては多くの症状は改善します。
心因性肩こり
人前での仕事や、緊張する場面での会食、仕事の追われる、これらの状況下では、無意識に肩に力が入ってしまうものです。
一時的なものであれば問題ないですが、過剰なストレスがかかり続けることで交感神経が優位な状態が持続すると、末梢の血管が収縮して血流が滞りがちになります。これを解消しないまま常に肩に力みがあると、より筋肉がガチガチに固まり、発痛物質の温床になってしまいます。これがストレスによる心因性の肩こりです。
几帳面な人、責任感が強い人、ストレスをうまく発散できない人、悩みや不安を常に抱えている人などが陥りやすいです。ストレスを取り除くことが最大のポイントです。
症候性の肩こり
背景に病気が潜んでいる肩こりがこのグループです。狭心症や肺の腫瘍、消化器疾患といった内科的な病気や整形外科的な病気、または眼精疲労や頭痛などが原因で、凝りや痛みの症状が起こります。
正しい姿勢に矯正したり、運動しても凝りや痛みが改善しない、あるいは首をちょっと動かしただけで肩周辺が痛む。肩や腕がピリピリ痺れる。肩全体が凝るのではなく、特定の部位だけに違和感がある。1ヶ月以上痛みが続き、だんだん痛みが強くなる、こうした症状が見られた時は症候性肩こりが疑われる。
頚椎椎間板ヘルニア
24個の椎体で組み上げられている脊椎のうち、7つの頚椎で起こります。椎体の間でクッション役を果たす椎間板の髄核が後方に飛び出し、神経や脊髄を圧迫。頚椎を後方に反らせると首、肩、腕に痺れが生じます。
肩腱板損傷
肩を覆う三角筋の深部にある腱の複合体、腱板が加齢や怪我によって切れてしまう疾患です。
強い痛みが特徴で自力で腕を上げることが難しくなります。
五十肩
正式名称は肩関節周囲炎。詳しい原因は諸説あるが、肩関節を構成する骨、靭帯、腱などが老化によって劣化し、周辺に炎症が起こって痛みが生じると考えられています。夜間にズキズキと激しい痛みを感じることもあります。
頚椎症性神経根症
加齢による椎間板の変形によって背骨が棘のように尖り、脊髄から分岐する神経根が圧迫されしまう状態。手の指や腕に痺れを感じたり、肩甲骨周囲に耐えられないような痛みが生じるなど症状は様々です。
胸郭出口症候群
首の斜角筋の間、鎖骨と肋骨の間、小胸筋と肋骨の間で腕の神経の束が圧迫される病気。電車の吊り革につかまるときなど、腕を上げる動作をしたときに上肢の痺れ、肩、腕に痛みが生じます。