最近、急増している『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』致死率がおよそ30%にも達する危険な感染症で、強烈な症状から”人食いバクテリア”とも呼ばれています。その症状や日常での対処法とは??
劇症型溶血性レンサ球菌感染症とは
『劇症型溶血性レンサ球菌感染症』とは、『溶血性レンサ(連鎖)球菌』、いわゆる『溶連菌』に感染して起こる感染症です。
溶連菌は、どこにでもいる細菌で、子供の咽頭炎などを引き起こす細菌として知られています。劇症型溶連菌感染症を起こすのは、溶連菌のうちの病原性の高いタイプで、手足の傷などから体内に侵入すると考えられています。
体内では急速に増殖して、筋肉の壊死や多臓器不全などを起こし、致死率が30%にも達するという危険な感染症です。
咽頭炎を起こす溶連菌が体内で劇症型に変異することは、まずないようです。
増えている劇症型感染症
最近、劇症型溶連菌感染症の報告数が急増しています。報告数はこの10年ほど増え続け、2023年は941人と過去最高を記録しました。2024年は5月5日までに801人を記録し、このペースが続くと2000人を超え、2023年の2倍以上になると予測されています。
罹患する方は60歳代以上の中高年に多いのですが、最近は50歳代以下にも増えており、広がりが懸念されています。
劇症型溶連菌感染症は、1987年に初めて報告された新しい病気です。認知度が上がることで、報告数が増えた可能性があります。5月の報告時は一般的な溶連菌による咽頭炎も流行していて、溶連菌自体が増えているため、劇症型も増えていることが考えられます。また、次のようなコロナ禍の影響が指摘されています。
⚫︎感染症対策の徹底により、病原体への曝露機会が減り、免疫の働きが低下した。
⚫︎感染症対策の行動規制が緩み、移動や対面など、人々の行動が活性化した。
さらにヨーロッパやアメリカなどから、病原性の高い『M1UK株』などが国内に流入していることが確認されています。
劇症型溶連菌感染症の進行
手や足の傷などから劇症型溶連菌が体内に侵入すると、『手や足の痛みや腫れ』『39度を超える発熱や意識障害』『筋肉の壊死』『多臓器不全(肝臓や腎臓などの臓器の機能障害)』などが急速に進行します。
手の場合の例では、手首の関節がわからないくらい腫れ上がったり赤くなったりして強い痛みが生じます。さらに進むと皮膚が赤色から紫色に変色して、壊死が始まります。進行は非常に早く、傷の腫れに気付いてから壊死が始まるまで数日、早ければ1日で進むこともあります。
壊死が進むスピードも1時間に数センチと非常に速く、朝、足先が腫れていると思ったら、昼には膝まで進み、太もも、胴体へと、あっという間に広がります。壊死した部分からは大量の溶連菌が検出され、速く除去しないと命に関わる状態になります。
実際に、『来院時は普通に話していたのに、数時間後にはショック状態に陥り意識がなくなった』『自分で自動車を運転していて救急外来を受診したのに、容体が急変して15時間後に亡くなった』など、急激に悪化する例があるようです。
近年、高齢者の孤独死が社会問題になっていますが、その原因の一つに劇症型溶連菌感染症があることが推測されます。
⚫︎感染経路
咽頭炎を起こす溶連菌は、飛沫感染や接触感染で感染するとされています。一方、劇症型溶連菌は主に接触感染で広がると考えられていますが、詳しいことはわかっていません。ただし、人から人に感染することは確実で、壊死部分に触れたり、肛門から排出された便に触れたりして、溶連菌が小さな傷や粘膜などから侵入するのではないかと考えられています。
⚫︎治療
ペニシリン系の抗菌薬が高い効果を示します。壊死した患部を切開して洗浄しますが、壊死が進んでいると、患部を切断せざるをえない場合もあります。
実際のケースタディ
60歳代・女性
⚫︎きっかけ
庭仕事中に大きな植木鉢が足に落下。翌日、足の甲が腫れて整形外科を受診し、打撲と診断される。
⚫︎症状
数日後、足の甲の腫れに痛みが伴い、意識障害も見られたため、家族が救急外来に連れてゆき、劇症型溶連菌感染症と診断される。
⚫︎治療
抗菌薬の投与や患部の洗浄などを行う。切断には至らなかったが、壊死の範囲が広く、臀部からの皮膚移植を10回程度受ける。約1年後に退院し、日常生活に復帰。
80歳代・男性
⚫︎状態
脳梗塞の後遺症により寝たきりの状態。糖尿病の持病があり、突然足が赤く腫れて、39度を超える発熱があり、かかりつけ医に相談して救急搬送され、劇症型溶連菌感染症と診断される。
⚫︎原因
はっきりした傷は見つからないが、踵に小さな褥瘡(床ずれ)があり、ここからの溶連菌侵入が疑われた。
⚫︎治療
発見が早く、患部の切開・洗浄、抗菌薬の投与で回復。1ヶ月ほどの入院で退院できた。
70歳代・男性
⚫︎発見
自宅で倒れていたところを発見され救急搬送。劇症型溶連菌感染症と診断される。
⚫︎原因
足に水虫があり、そこから溶連菌侵入が疑われた。
⚫︎治療
足、膝、お腹、胸、顔の一部など広範囲にの筋肉が壊死していたが、いずれも比較的浅く、抗菌薬の投与と患部の洗浄で、幸いにも一命を取り留めた。3ヶ月以上のリハビリが必要な状況。
→知っておくべきポイント
⚫︎手足の細かな傷から侵入。特に足に注意。
⚫︎基礎疾患の有無に関係なく注意が必要。
⚫︎60歳代以降の高齢者に多いが、最近、若い世代にも増加。
3つのケースから
溶連菌の侵入経路を特定できないことも多いですが、擦り傷、水虫、床ずれ、ひびやあかぎれ、深爪やささくれ、靴擦れなど、些細な傷が侵入経路になりうるので、注意が必要です。
また、糖尿病の合併症で神経障害があると、足の指や裏などの痛みを感じず、傷を見逃すことがあります。本人や周囲の人が十分に確認する必要があります。
劇症型溶連菌感染症に対処するには
⚫︎手を洗う
⚫︎足を洗う
⚫︎足の状態をよく確認する
赤く腫れたり痛かったりするところはないか、水虫、ひびやあかぎれ、深爪やささくれ、靴擦れなどないか。毎日確認をする。
⚫︎傷があるとき
消毒をしたり絆創膏で患部を覆ったりして、清潔に保つ。化膿や出血があれば流水で洗ってから消毒をする。また治るまでよく観察をすることが大切。水虫や長いひび割れは、皮膚科に受診することも大切です。